今回は貴腐ワインについて解説します。
「貴腐ワインって何?」っていう人も多いんじゃないでしょうか。
少しワインを勉強したことがある人なら、「甘いワインってことは知ってるけど…」って人もいるかもしれません。
貴腐ワインの原料である貴腐ブドウは、本来ブドウの病原になってしまう菌が、特定の条件を満たすと有効に作用して生まれる、非常に糖分の凝縮したブドウです。
そんな貴腐ブドウから造られる貴腐ワインは当然極甘口。
この記事では貴腐ワインや貴腐ブドウが生まれる条件や、世界三大貴腐ワインについても解説しています。
オススメの貴腐ワインや飲み比べセットも紹介しているので、ワイン選びの参考にしてください。
貴腐ワインとは
- 貴腐ブドウから造られた甘口ワイン
- ボトリティス・シネレア菌が関係する
貴腐ブドウから造られた甘口ワイン
貴腐ワインとは、貴腐ブドウという特殊な状態のブドウから造られた極甘口のワインのことです。
「貴腐ブドウ」という名前のブドウ品種があるわけではないので注意しましょう。
腐敗したように見えるブドウからは想像できない、見事な芳香と風味を持つワインができることから、「高貴なる腐敗」と表現されてこの名前がつきました。
ボトリティス・シネレア菌が関係する
貴腐ブドウの生産にはBotrytis cinereaというカビ菌が関係しています。
本来ボトリティス・シネレア菌は「灰色カビ病」という伝染病の原因で、ブドウに付着すると被害部が変色し、最悪の場合は樹が枯死してしまう厄介者。
しかし特定の条件がそろうと、貴腐ブドウを作り出すことに一役を買います。
果実から水分が抜けて糖分が凝縮する
条件がそろった環境でブドウの果実にボトリティス・シネレア菌が付着すると、菌の成分によって果皮が溶け出し、果実の表面に小さな穴が開きます。
この穴から果実の水分が蒸発していくと、ブドウは干しブドウのような状態になり、糖分がギュッと凝縮。
この状態のブドウのことを貴腐ブドウと呼び、糖分が凝縮されているブドウからできた貴腐ワインは極甘口になるというわけですね。
菌の代謝によって果実には「貴腐香」という独特の香りが生まれることも特徴です。
貴腐ブドウができる3つの条件
- 完熟したブドウに貴腐菌が付着する
- 9月~収穫までの時期に朝霧が発生し、菌が生育できる温度や湿度が保たれている
- 日中は晴天となり、ブドウ内部の水分が蒸発できる
完熟した特定のブドウに貴腐菌が付着する
貴腐ブドウを造るには、完熟したブドウ果実にボトリティス・シネレア菌が付着する必要があります。
そのため本来は完熟したブドウは収穫されますが、貴腐ブドウを造るときは完熟しても菌が付着するまで収穫せずに待ちます。
菌が付着するブドウ品種も重要で、貴腐ブドウになる代表品種としては「リースリング」「セミヨン」といった品種が有名です。
未熟なブドウや、菌に対応できないブドウ品種にボトリティス・シネレア菌が付着してしまうと灰色カビ病となり、そのブドウはワイン造りに使えなくなってしまいます。
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9月~収穫までの時期に朝霧が発生し、菌が生育できる温度や湿度が保たれている
貴腐ブドウを造るにはボトリティス・シネレア菌が生育できる環境が必要です。
朝霧によって高い湿度があり、15~20℃程度の温度環境を満たすとボトリティス・シネレア菌の蔓延に最適な環境となります。
「朝霧が発生する」という条件を満たす必要があるので、貴腐ブドウは特定の川沿いなど限られた地域でしか生産できません。
日中は晴天となり、ブドウ内部の水分が蒸発できる
ブドウにボトリティス・シネレア菌が付着しても、果実の水分が蒸発できなければブドウはただ腐るだけです。
そのため日中は晴天になって、しっかりと果実の水分を蒸発させる必要があります。
地域だけでなく、天候も大切ということですね。
しかもこれらの気候条件は、だいたい一か月以上継続する必要があります。
貴腐ワインが高価になる3つの理由
- 気象条件が整った場所と年しか生産できない
- 通常のワインよりも取れる果汁量が少ない
- ブドウの収穫が細かい手作業になる
気象条件が整った場所と年しか生産できない
前述のように、貴腐ブドウは特定の地域で、条件が整った気候の年しか生産できません。
そのため貴腐ワインは、毎年生産される通常のワインと比べて希少です。
通常のワインよりも取れる果汁量が少ない
貴腐ブドウは水分が蒸発しているので、ブドウ一粒からとれる果汁の量が少なくなります。
そのため同じ量のワインを造るのに必要なブドウ果実の量が、通常のよりも多く必要。
例えば最上級貴腐ワインとして有名なシャトーディケムでは、一本のブドウ樹からグラス一杯分のワインしか造れません。
ブドウの収穫が細かい手作業になる
同じブドウの房でも、菌の付着具合によって貴腐化した果粒と貴腐化してない果粒が混ざっています。
収穫の際にはこれを手作業で一粒一粒選果していくので、通常よりも何倍も手間がかかります。
世界三大貴腐ワインとは
- フランス・ボルドー地方のソーテルヌ
- ドイツのトロッケンベーレンアウスレーゼ
- ハンガリーのトカイ
貴腐ワインの中でも、特に有名な3つのワインを「世界三大貴腐ワイン」と呼びます。
いずれも朝霧が発生する条件を満たす、川沿いの産地。
糖度が非常に高いので、粘性があってハチミツのようなワインになります。
フランス・ボルドー地方のソーテルヌ
ソーテルヌ地区はセミヨン種を主体として、ソーヴィニヨンブランやミュスカデルをブレンドしたスタイルの貴腐ワインが造られる産地です。
特に朝霧が発生しやすいのは、シロン川とガロンヌ川が合流する地点。
貴腐ワインの中では法定アルコール度数が13%以上と高く、アルコール由来の甘さも感じやすいワインになります。
新樽熟成と貴腐香が入り混じった複雑で濃厚な風味を持つのも特徴的ですね。
ちなみにメドック地区で有名な格付けシャトーはソーテルヌ地区にも存在していて、すべて甘口白ワインのみが認められます。
中でも唯一”特別1級”に格付けされるシャトーディケムは世界でも有数の高級貴腐ワイン。
いい年から造られたシャトーディケムは100年以上経っても健全な状態で楽しめるとか…。とんでもないポテンシャルですね。
ハンガリーのトカイ
貴腐ワインの起源はハンガリーとされます。
1650年ころ、オスマン帝国に侵略された影響でブドウの収穫が遅れ、偶然生まれた貴腐ブドウから世界最初の貴腐ワインが造られました。
そんなハンガリーのトカイはボドログ川とティサ川が交わる地域。
「フルミント」というブドウ品種からつくる貴腐ワインが有名です。
貴腐ブドウを入れる量や、ブドウの糖度などによって6種の格付けがあり、最高品質の「Eszencia」はなんと残糖450g/L以上。
1リットルに450gの糖分って、とんでもない量ですね。これがすべてブドウ由来だというんだから驚きです。
糖分を維持するためほとんどアルコール発酵させないことから、ワインのアルコール度数は低いもので1.2%。高くても8%までしか上がりません。
格付けのグレードによっては糖分がもっと少なかったり、アルコール度数が9%以上のものもあります。
トカイの品質分類 | 備考 |
Eszencia エッセンシア |
手摘みした貴腐ブドウのフリーランジュースを使用 残糖450g/L以上 アルコール1.2~8% |
Tokaj Aszu トカイ アスー |
貴腐ブドウと貴腐化していないブドウをブレンドして造る 残糖120g/L以上 アルコール9%以上 |
Szamorodni サモロドニ |
「自然のままに」という意味のスラブ語 粒ごとに選別せず房のまま収穫 貴腐化したブドウの割合により辛口~甘口まである |
Forditas フォルディターシュ |
アスーに使用した貴腐ブドウの二番絞りをマストに加えて造る |
Maslas マーシュラーシュ |
アスーやサモロドニの滓に果汁を加えて発酵 |
Pezsgo ペジュグー |
トカイで造られるスパークリングワイン |
ドイツのトロッケンベーレンアウスレーゼ
政府に指定された13のワイン生産地域がありますが、貴腐ワインは主にライン川沿いで生産されます。
ソーテルヌやトカイは産地の名前でしたが、トロッケンベーレンアウスレーゼは産地名ではなく格付け名。
ドイツの旧ワイン法ではブドウの果汁糖度によって6段階の格付けがあり、トロッケンベーレンアウスレーゼはその最高位にあたるワインです。
トロッケンベーレンアウスレーゼ以外の5つは貴腐ブドウを使用しないスタイルなので、貴腐ワインを選びたいときには注意しましょう。
細長い独特なボトルに入っていて、ハーフボトル(375ml)も多い印象。
使用品種は主にリースリングで、ピーチのようなフルーティな香りと鋭い酸を併せ持つのが特徴です。
ちなみにドイツでは2021年に新しいワイン法が制定されました。
新ワイン法ではブドウの糖度による格付けではなく、産地ごとの格付けに変更となっています。
2025年までは法律の移行期として新旧どちらの表記も認められていますが、それ以降はトロッケンベーレンアウスレーゼという名前のワインはなくなるかもしれません。
ドイツの糖度別6つの肩書 | 備考 |
Kabinett カビネット |
糖度:70~85エクスレ以上 |
Spatlese シュペトレーゼ |
遅摘みブドウで造る 糖度:80~95エクスレ以上 |
Auslese アウスレーゼ |
完熟or貴腐ブドウで造る 糖度:88~105エクスレ以上 |
Beerenauslese ベーレンアウスレーゼ |
貴腐or過熟ブドウで造る 糖度:110~128エクスレ以上 |
Eiswein アイスヴァイン |
氷点下7℃以下で収穫したブドウで造る 糖度:110~128エクスレ以上 |
Trockenbeerenauslese トロッケンベーレンアウスレーゼ |
乾燥した貴腐ブドウで造る 糖度:150~154エクスレ以上 |
どちらも極甘口ですが、貴腐ブドウの割合などが少し違います。
貴腐ワインの味わい方
- 4~8℃程度に冷やして飲む
- 無理に一日で飲み切る必要はない
4~8℃程度に冷やして飲む
貴腐ワインに限らず、甘口ワインは辛口ワインよりも低めの温度がオススメ。
冷蔵庫の冷蔵室がだいたい4度くらいなので、冷蔵庫で冷やして飲むのが簡単ですね。
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保存性が高いので何日もかけて飲んでもOK
貴腐ワインは糖度が非常に高いため、通常のワインよりも酸化しにくく保存性が高いです。
そのため一度栓を開けても、正しく保存すれば2週間~長くて1か月ほどは健全に楽しむことができます。
非常に甘いので1~2日で飲みきるにはちょっと大変なので、保存がきくのはありがたいですね。
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貴腐ワインと相性のいい料理
- 塩味の強いもの
- 甘いデザート
貴腐ワインはいわゆる「デザートワイン」に分類されるので、食後のデザートとして単体で飲んでも十分楽しめます。
もし何か食事と合わせるなら、同じように甘いデザートや、ブルーチーズのような塩味の強い食材がオススメ。
フランスでは貴腐ワインとフォアグラを合わせるのが有名なので、こちらも機会があればお試しください。
オススメの三大貴腐ワイン
フランス・ソーテルヌ
ハンガリー・トカイ
ドイツ・トロッケンベーレンアウスレーゼ
三大貴腐ワイン飲み比べセット
最後に
- 貴腐ワインは貴腐ブドウから造られた甘口ワイン
- ボトリティス・シネレア菌が作用する
- 貴腐ブドウができるには厳しい条件を満たす必要がある
- 手間がかかり少量生産なため高級品
- ソーテルヌ・ドイツ・ハンガリーが世界三大貴腐ワイン産地
- 4~8℃程度に冷やして飲む
- 無理に一日で飲み切る必要はない
- 塩味の強いものや、甘いデザートと相性がいい
今回は貴腐ワインについて解説しました。
本来は病害である菌が、特定の条件下のみ有効に作用して素晴らしいワインが生まれるのは魅力的だし、ワインの面白さでもありますね。
大量生産ができず、人の手もかかるのでどうしても高額になってしまいますが、何日も時間をかけて楽しめるワインなので機会があればお試しください。
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