今回はワインに使われるコルク栓について解説します。
ワインの栓と言えば最初にコルクを思い浮かべる人が多いでしょう。
一言にコルクといっても実はいくつか種類があって、最近はスクリューキャップのものも増えてきていますね。
ワイン栓ごとの特徴や取り扱い方を知ると、ワインを一歩深く楽しむ材料になるので、是非参考にしてください。
- ワイン栓それぞれの特徴
- ワイン栓ごとの取り扱い方の違い
- スクリューキャップとコルクの優劣
↑筆者はコルクを捨てずに100均ケースに溜めて飾っています
ワインとコルク栓の歴史
ワイン造りの歴史は古く、紀元前6000年頃からとも紀元前8000年頃からとも言われます。
かたやコルクの歴史も紀元前550年からそれ以上とも言われますが、ワインの栓として使われるようになるのはガラス瓶が開発された16世紀頃。
それまではアンフォラと呼ばれる取っ手付きの土器にワインを入れて貯蔵や運搬を行っていましたが、ガラス瓶にワインを入れてコルクで密閉できるようになったことで運搬にかかる手間が大きく削減します。
それによってワインは大きく普及し、瓶内での熟成という一面をワインに与えることになりました。
コルクの原料「コルク樫」
コルクはブナ科のコルク樫という樹が原材料となっています。
コルク樫は地中海~大西洋沿いを中心に生息しており、そこで吹く偏西風から身を守るために分厚い樹皮を纏っています。
この樹皮を剥がしてコルクとして人間が使っているわけですね。
コルク樫は20年ほどで成木になり、10年前後起きに樹皮を採取することができます。
一本の樹おおよそ12回、期間にして150年から250年ほどの期間繰り返し樹皮の採取が可能という、バイタリティ溢れる樹です。
コルクの主要産出国はポルトガルやスペイン。特にポルトガルは全世界生産量の半分以上を占めるコルク大国です。
コルク樫の特徴は弾力性があり水をほとんど通さず、通気性はわずかにあって高い断熱性もある上に酸にも強いこと。
ワインは他のお酒と比べて酸が強いため、酸で溶けてしまう素材は栓に使えません。
密閉性や断熱性なども相まって、コルクはワイン栓につかう素材として見事にマッチしていますね。
現在ワインに使われるコルク栓の種類
- 天然コルク
- テクニカルコルク(圧搾コルク)
- 一部天然一部圧搾コルク
- 合成コルク(プラスチックコルク)
- スパークリングワイン用のコルク
現在ワインの栓として上記5種類のコルク栓が主流で使われていて、それぞれ密閉性や製造コスト等が異なります。
天然コルク
天然コルクはコルク樫の樹皮から円筒型にくり抜かれたものです。
16世紀頃にワインの保存にガラス瓶が使われるようになってから需要が一気に拡大しました。
くり抜いたものを自然乾燥だけして加工せずそのまま使うため、くり抜く場所によって品質に差が出やすく生産量も限られるので高価になります。
ちなみにコルク消費量のうち、ワインの栓に使われるのは15%前後ですが、金額にすると70%近くになるそう。
これだけみてもいかにワインのコルク栓が高級品かわかりますね。
天然物のため他の加工したコルクと比べると強度が低く柔らかいです。
そのため、ワインの開栓の際に折れたり崩れたりしてしまうこともしばしば。
しかしきちんと管理された天然コルクはボトルをしっかり密閉し、ワインの状態を維持してくれます。
ワインを寝かせて保存するのは、コルクを乾燥から守って密閉性を維持するためです。
高級ワインには木目の細かく長い高品質の天然コルクが使われ、長い期間の熟成に耐えられるようになっています。
しかしそれでも20~30年程度でコルクの寿命が来てしまうので、それ以上長期で熟成させる場合にはリコルクというコルクの打ち直しが行われます。
コルクが割れてしまう原因と予防法は「【自宅で出来る】ワインのコルクが割れる原因と対処法を解説」で解説しています。
リコルクについては「長期熟成ワインの品質管理に必要な「リコルク」を解説します」をご覧ください。
天然コルクのブショネ
ブショネはフランス語でコルクを意味する
ブショネの発生率は5%と言われており、これはどんな高級ワインに使われる天然コルクでも平等です。
ブショネはコルクとワインが2,4,6-TCA(2,4,6-トリクロロアニソール)という強いカビ臭を持つ物質に汚染されることで起こります。
2,4,6-TCAは材料のコルク樫に含まれる場合と、木材防腐剤などに使用される塩素が微生物に代謝されることで発生する場合があります。
嗅覚閾値(人が匂いを感じる最小濃度)がとても低く、25mプールに0.005g溶かした場合でも10人中9人が匂いを感じると言われる強烈具合。
その強烈なにおいがワインにもうつってしまい、そのワインは欠陥品となります。
ソムリエがワインを抜栓した際にコルクの香りをチェックする仕草を見たことはあるでしょうか。
それはこのブショネの有無を確認しているわけです。
コルク以外の発生源としてワイナリーの設備が2,4,6-TCAに汚染されている場合があり、こうなってしまうとその設備を使ったワインはすべてブショネになります。
ブショネの発生原因の大半はコルクの不良ですが、コルクの不良=ワインの不良となるので、レストランなどでブショネだと思った際にはソムリエに伝えればワインを交換してもらえます。
現在の技術では天然コルクのブショネを確実に防ぐことは不可能と言われます。
しかしコルクメーカーによる厳しい検品などの努力で発生率は抑えられていて、たとえブショネであったとしても程度が低ければ気づかずに飲めてしまうこともあるようです。
実際に筆者も一年で100本程度ワインを飲み、その中には天然コルクのものも含まれますが、未だ明確にブショネだと思ったワインは出会っていません。
テクニカルコルク(圧搾コルク)
天然コルクをくり抜いた後のコルク樫の樹脂を細かくして圧縮し、接着剤で固めて造られるコルクです。
天然コルクよりもさらに強度が低いですが品質が安定していて安価です。
長期熟成のワインには使用せず、カジュアルワインに使われています。
しかし最近では高性能な圧搾コルクも造られていて、
- 「DIAM」(OENEO社)
- 「(Vino-Lok)」(Alcoa社)
- 「Zork」(Zork 社)
- 「NDtech」(アモリム社)
といったラインナップが有名です。
特にアモリム社の「NDtech」のNDはnon-detectable(感知できない)、つまりブショネの原因である2,4,6-TCAを”感知できません”ということを意味します。
またOENEO社の「DIAM」は酸素を通す量(酸素透過率)を調整することができます。
生産者が望むワインに適した酸素透過率を実現することができるわけですね。
コルクに「DIAM〇」(〇の部分に数字が入ります)と表記され、〇年熟成させるワイン向けのコルクだ、ということを表しています。
ブショネや酸素透過率の問題をクリアしつつ、安価で造れる圧搾コルクがワイン栓の主役になる未来があるかもしれません。
↑こちらはDIAM3。3年熟成を目安にしたコルクです。
一部天然一部圧搾コルク
栓の中心に圧搾コルク、栓の周辺に天然コルクを使用したコルクです。
外側が天然コルクなので通常の圧搾コルクより硬く、高級感もあります。
中心は圧搾コルクなのでその分安価になり、量産が可能です。
合成コルク(プラスチックコルク)
合成コルクはコルクといいつつ、原料はコルク樫ではなくプラスチック製。
樹脂製コルクとも呼ばれます。
製造当初は酸素透過率がかなり高く、酸素を防ぐ力が弱いという欠点がありました。
それによって長期熟成向けのワインには使用できず、どちらかというと早飲み向けのデイリーワインに使われていたわけですね。
しかし最近は酸化透過率がかなり抑えられた合成コルクも造られており、長期熟成向けにも使えるようになってきています。
密閉度があがったことで、抜栓時に強い力が必要なのは少し欠点。
未だ安物っぽいというイメージでなかなか浸透はしていませんが、この先高級ワインにも合成コルクが使われる日が来るかもしれません。
スパークリングワイン用のコルク
スパークリングワインのガスが抜けないようにコルクを高密度にし、重量を重くしたコルクです。
キノコのような形をしていますが、栓をするときには通常のコルクと同じ円筒形をしています。
これを無理やり押し込んで栓にするため、抜栓時にはキノコ型になるわけですね。
押し込むだけではガス圧で抜けてしまうので、ワイヤーでコルクが吹き飛ばないように抑え込まれています。
抜栓時にはソムリエナイフやスクリューオープナーといったコルクを傷つける道具は絶対に使わないようにしてください。
高密度のコルクが瓶に負荷を与え、瓶が割れる可能性があります。
通常のワインであれば飲み残してもコルクを差し直せば2~3日は問題ありませんが、スパークリングワインのコルクは手で刺し直すことができません。
飲み切れなかった時は専用のストッパーを使うようにしてください。
ワインの保存法については「開けた後のワインはいつまで飲める?飲み残したワインの保存法」も参考にしてください。
コルク以外のワインの栓
天然のコルクが希少になってきたこともあり、コルク以外のワイン栓も注目されています。
スクリューキャップ
最近ではコルクではなく、スクリューキャップのワインも増えてきました。
特に普及率の高いニュージーランドでは、ワイン栓の99%がスクリューキャップになっています。
コルク起因のブショネの可能性が0で、ソムリエナイフなどの道具を使わなくても開栓が可能。
飲み残したときの再栓も簡単です。
製造コストが低く、コルクを守るためにワインを寝かせて保管する必要もありません。
天然のコルクが希少になってきているため、高級ワインでもスクリューキャップを使用するワイナリーも出てきています。
酸素を通す量はごく微量で、天然コルクに比べると狙った熟成にかかるまでの期間が長くなる傾向があります。
また金属製であるため、ワインが持つ酸との相性が少し気になるという懸念も。
スクリューキャップがワインの栓に使われるようになってまだ歴史が浅いので、これからどのように評価されていくか注目のワイン栓です。
ガラス栓
かなり少数ですが、ガラスで栓をしているワインもあります。
開栓は手で引っ張って抜くだけです。当然ブショネの心配はありません。
瓶に差し込む突起と蓋はガラス製ですが、蓋の裏側にゴムがついていてワインが漏れないようになっています。
こちらもスクリューキャップと同様に飲み残したときの再栓が簡単で、洗浄して再利用も可能。
ガラス栓のことをヴィノ・ロックというので、いつか使える豆知識で覚えておいてもいいかもしれませんね。
栓の外側を包むキャップシール
ワインの栓にいくつも種類があるのと同じように、それらをくるむキャップシールにもいくつか種類があります。
キャップシールはコルクの乾燥や瓶の瓶口を衝撃から守るためについてます。
多いのはアルミ製のものとプラスチック製のものが一般的。
↑キャップシールにコルクを飾ればワインが一層おしゃれに楽しめます
あまり一般的ではありませんが、キャップシールの代わりに蝋で瓶口が覆われている物もあります。
この場合には剥がすことが出来ないので、少し削った蝋の上からスクリューを差してコルクごと引き抜いて開栓してください。
ワインはコルク栓のほうが美味しく感じる?
ワインには雰囲気も大切です。
実際に同じワインを「スクリューキャップの瓶に入れたもの」「コルク栓の瓶に入れたもの」でそれぞれ提供したところ、コルク栓のほうがおいしいと感じる人が多かったそうです。
ソムリエが見事な手際でコルクを抜栓してくれたほうが、気持ちがあがるのは同感です。
しかし今後スクリューキャップの商品がどんどん増えていって大半がスクリューキャップになれば、このようなイメージは逆転するかもしれないと個人的には思います。
最後に
今回はワインに使われるさまざまな栓を紹介しました。
最近では密閉性という点では優劣は付けづらく、やはりブショネ対策をどうするかというところが焦点になるように感じます。
天然コルクの材料はどんどん希少になり、コストやブショネ問題の解決策として天然コルク以外の栓がどんどん主流になっていくでしょう。
ワインを飲むとき、栓に何が使われているかちょっと気になったりして、楽しみが増えていただければ幸いです。
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